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「男はつらいよ」全48作を完全制覇への道!!
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第10作「男はつらいよ」寅次郎夢枕 
 
公開日 1972年(昭和47年)
10.jpg
古き良き時代のとあるバー。
長次郎親分(吉田義男)とその子分達がさくらを取り囲んでテーブルに座る。さくらに無理やりダイヤの指輪を渡そうとするが、それを拒むさくら。そこへ博が現れて「おい、やめろ!」と叫ぶ。親分の命令で袋叩きにされる博。杖で叩こうとする長次郎親分の手を黒手袋の男が掴む。「て、てめえはマカオの寅!」。親分が懐からピストルを抜こうとするが、一瞬早くマカオの寅のピストルが火を噴く。入口から警察が入ってきてあっさりと捕まるお尋ね者のマカオの寅。そして警察に連れていかれるマカオの寅がさくらに向かって一言。「江戸川は、葛飾柴又の川っ淵、題経寺にあるおとっつぁんの墓だけは参ってくれよ」。マカオの寅が自分の兄だとわかったさくら。「お兄ちゃぁん!」と何度も叫びながら追いかける。その姿を見たマカオの寅はたまらず、「旦那、マカオの寅も人の子でござんす」と漏らす・・・・・
駅で昼寝をしてる寅さんが汽笛の音で目を醒ます。 

「お転婆のさっちゃん」の結婚式の日に柴又に帰ってきた寅さん。(花嫁姿で登場するこの花嫁、実は源公役の佐藤蛾次郎さんの奥さんである。山田洋次監督の計らいにより、結婚直後の佐藤蛾次郎夫妻に対して奥さんを花嫁姿で映画に出演させたのである。これは「男はつらいよ」を象徴するかのような粋な演出である。)いつものように「とらや」を素通りした寅さんであるが、この日は虫の居所が悪く「とらや」の正面には戻らずにタコ社長の工場の通用口から朝日印刷に入って博にあたり散らした。「とらや」のみんなが自分の悪口を言っていると思った寅さんは、裏庭から「とらや」の茶の間に回り、窓の外でこっそりとみんなの会話を聞いた。寅さんが話を聞いているのを知ったみんなは、わざと寅さんに聞こえるように寅さんを誉める会話をした。それを聞いた寅さんはみんなの優しさに心打たれ、すっかり改心したのであった。改心した事をみんなから誉められ、所帯を持つ事を勧められる寅さん。次の日早速タコ社長が知り合いに寅さんとの縁談話を持ちかけたが、誰も相手にはしてくれなかった。おいちゃんの知り合いからも電話で根掘り葉掘り聞かれた挙句、見合いの相手は寅さんだと言ったら「馬鹿にするな!」と怒鳴られてしまった。この話が元で寅さんとみんなは大喧嘩となり、例によって寅さんは夜の柴又を後にする事となった。

秋の信濃路、寅さんは一軒の農家で昼をご馳走になった。そしてその農家の奥さん(田中絹代)から商売仲間の「伊賀の為三郎」の死を知らされた。為三郎の墓に線香をあげ、夕刻の寒空の中を農家を後にする寅さんであった。その夜、為三郎の事を考えながら宿で寝そべっていると、隣の部屋から妙な話し声が聞こえてきた。「俺の故郷はな、東京は葛飾柴又・・・」。寅さんはその聞き覚えのある声から声の主が舎弟の登だとすぐに気がついた。再会した二人はしばらくいっしょに売をしたが、ある朝登が目を醒ますと寅さんは書き置きを残して姿を消していたのであった。 9作が登が書き置きをして去るのに対し、10作は寅次郎が書き置きをして去っている。10作では久しぶりに二人の売のシーンが見られる。しかし登が寅次郎の舎弟として出演するのはこれが最後であり、次回の登場は12年先の第33作「夜霧にむせぶ寅次郎」となる。12年後の登は女房と子持ちの堅気であり、それが登のシリーズ最後の出演となる。

その頃「とらや」では東大の助教授をしている御前様の甥の岡倉先生(米倉斉加年)が「とらや」の二階に居候していた。夜、「とらや」のみんなが食事をしているところへ寅さんが帰ってきた。岡倉先生に気がついた寅さんは、知らない人間が家族同様に食事をしているのが気に入らなかったらしく、嫌味ったらしい事を言った。岡倉先生が東大の助教授だと聞くと寅さんは益々気に入らなくなったようである。
それまでの経験から、岡倉先生が自分の部屋に居候している事を察知した寅さんはカバンを持って「とらや」を出ようとした。そこへ寅さんの幼なじみのお千代坊(八千草薫)が「とらや」に入ってきた。懐かしさのあまりお千代坊と話がはずむ寅さん。二人で和気あいあいとなり、さっきまでの険悪な雰囲気はどこへやら。すっかり機嫌が良くなった寅さんはしばらく「とらや」に落ち着く事となった。

女手一つのお千代坊に何かと手助けをしてやる寅さんだが、そのお千代坊に岡倉先生が惚れてしまった。初めてお千代坊を見た瞬間から岡倉先生はお千代坊にぞっこんとなり、大学に提出するレポートにも「お千代」と書いてしまう始末。その日から完全に恋の病となってしまったのである。お千代坊には別れた亭主と亭主が引き取った小学生の息子(サトシ)がいる。ある日サトシがお千代を尋ねて柴又にやってきた。江戸川の土手で二言ほど言葉を交わしたが、友達といっしょに来ていたサトシはすぐに自転車に乗って行ってしまった。涙が止まらないお千代坊・・・。 その話を聞きつけた寅さんは、その夜お千代坊をとらやに呼んで食事をして元気をつけてやろうと考えた。夕食の席、何の話をしてもどういう訳かすぐに子供の話題になってしまい、お千代坊を元気づけてやろうという計画は失敗に終わった。しかしお千代坊はみんなの心遣いに感謝し、嬉しさと寂しさで涙が溢れるのであった。

しばらくすると岡倉先生の恋の病がひどくなり、とうとう大学へも行けなくなってしまった。その姿を見るに見兼ねた寅さんは、お千代坊に岡倉先生の気持ちを伝える事にした。お千代坊を誘って何時間も連れ回し、やっと亀戸天神で岡倉先生の気持ちを伝えた。ところが寅さんの言葉が足りなかったせいで、お千代坊は寅さんの話を寅さん本人のプロポーズだと勘違いし、事もあろうにそのプロポーズを了承してしまったのである。つまりお千代坊は寅さんを好いていたという訳である。お千代坊の勘違いに気がついた寅さんはその場で腰を抜かしてしまった。結局岡倉先生の話はそれっきりとなり、何とも後味の悪い結末となってしまった。

お千代坊との関係がぎくしゃくしてしまった寅さんは、やり切れない気持ちのまま再び旅に出るのであった。

この作品の見所は大きく三つある。一つ目はお千代坊の我が子に会えない寂しさと悲しみである。
別れた亭主が引き取った息子と再会し、お千代坊が「僕、大きくなったわねぇ・・・」というセリフには思わずジーンときてしまう。「もう行くの?」、というセリフには「ずっといっしょに居たいのに」という気持ちがありありと表現されており、少ないセリフにもかかわらず痛いほど感情が伝わってくる。我が子に会えない親の気持ちがどれ程のものかはわからないが、片腕をもぎ取られる以上の痛みと悲しみである事は間違いないだろう。短時間ながらこのシーンではその心境が見て取れる気がする。

二つ目は一つ目の延長で、寅さんがお千代坊を元気づけてやろうとするシーンである。子供の話題に触れないように注意しているはずが、新聞やテレビを見ると子供の話題ばかりが登場する。第2作でも同様の喜劇は見られたが、10作の方が緊張感があるように感じる。その違いは親を思う子の気持ちと子を思う親心との差かもしれない。

三つ目はやはり終盤の寅さんとお千代坊との亀戸天神での会話である。寅さんの話を寅さんの気持ちとして聞いてしまったお千代坊の態度と顔つきが実に良く撮れている。寅さんからのプロポーズだと勘違いしたお千代坊が嬉しさと迷いで橋の欄干を指でなぞるシーンなどは女心が実にうまく表現されている。しかしお千代坊の勘違いに気がついた寅さんが腰を抜かすとすぐにお千代坊は自分の言った事を撤回する。この辺はシナリオの逆転劇の見せ所でもある。参考までにこのシーンの雰囲気は以下のような感じである。

寅さん: 「イヤかい?」
お千代: 「イヤじゃないわ・・・」(欄干を指でなぞる)
寅さん: 「じゃあいいのか?」

これまでのシリーズではことごとく寅さんのマドンナへの思いは空振りに終わっているが、この作品は結果的に寅さんがマドンナに惚れられているのである。どの作品もそれぞれ特色はあるが、寅さんがマドンナに明確に惚れられるというのは「男はつらいよ」の柱が一本増えた事に等しい。以後の作品でもマドンナが寅さんに恋愛感情を抱く作品が登場する。しかし10作ほどマドンナの恋愛表現がはっきりした作品は他にないだろう。もう一点異色だと感じるのは寅さんが恋の指南役となる点である。この点も前作までには見られないシナリオである。シリーズが終盤に近づくにつれて寅さんは恋の指南役に徹するようになる。その原型がこの作品ではないだろうか。

寅さんがマドンナに惚れられる最初の作品として記念すべき作品でもある。最後になるが、この作品の冒頭の口上は前作までの作品とは少し違う。前作までは、「わたくし、生まれも育ちも・・・」で始まり、「・・・フウテンの寅と発します」で終わる。しかしこの作品の場合はさらに続きがあり、「右に行きましても左に行きましても・・・」、と続く。このような思考錯誤の繰り返しと微細な変化が「男はつらいよ」を継続させていた理由の一つではないだろうか。

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